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わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

清心蓮子飲(せいしんれんしいん)

清心蓮子飲の出典


和剤局方


清心蓮子飲の構成生薬


蓮肉4-5、麦門冬3-4、茯苓4、人参3-5、車前子3、黄芩3、黄耆2-4、地骨皮2-3、 甘草1.5-2


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム


清心蓮子飲の効能・効果


体力中等度以下で、胃腸が弱く、全身倦怠感があり、口や舌が乾き、尿が出しぶるものの次の諸症:残尿感、頻尿、排尿痛、尿のにごり、排尿困難、こしけ(おりもの)


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より


清心蓮子飲の処方解説


清心蓮子飲は気と津液を補う力を中心とした気陰双補剤(きいんそうほざい)です。厳密には清心蓮子飲に血(けつ)を補う力はあまり期待できないので、気津双補剤(きしんそうほざい)であるといえます。気と津液を補う他に、熱性症状を鎮める作用、精神状態を安定させる作用、そして水分代謝を改善する作用も持ったやや複雑な構成の漢方薬です。


清心蓮子飲の効能・効果を知るためには、気・血・津液のはたらきや性質を知る必要があります。気は身体を活性化する「生命エネルギー」と呼べる存在です。一方の血と津液は身体を栄養したり潤いを与えたりします。気は熱性を持ち、血と津液はその熱性を適度にクールダウンしています。


気が不足した気虚の状態に陥ると疲労感、重だるさ、息切れ、食欲不振といった症状が起こりやすくなります。津液が不足すると身体に潤いを与えることが難しくなり、喉の渇きや肌の乾燥といった症状がみられるようになります。くわえて、津液不足(しんえきぶそく)によって気の持つ熱性を抑制するはたらきも低下してしまうので、相対的に熱が過剰となってしまいます。この熱は虚熱(きょねつ)と呼ばれ、さまざまな不快症状が現れます。


虚熱の具体例としては不快なほてり感、寝汗、さらにはいつもソワソワして落ち着かない、焦燥感が募る、イライラ感、不眠などといった精神不安も現れやすくなります。このような精神症状は虚熱が五臓六腑(ごぞうろっぷ)における心(しん)に悪影響を及ぼした結果といえます。


泌尿器系においては津液不足の影響で尿が十分に作られずトイレから遠ざかってしまいます。一方で精神不安によって頻尿や夜間尿に陥るケースも見られます。その場合、根本的に津液は足りていないので何回もトイレに行っても尿量は少ないです。


清心蓮子飲が有効な症状は上記を総合したようなものとなります。したがって、特に泌尿器系の症状と虚熱をきっかけとした精神面でのトラブル、そして体力の低下などが大まかな清心蓮子飲の使用目標といえます。


清心蓮子飲の君薬(「くんやく」と読み、処方の中で最も中心的な役割を担う生薬)は、処方名にもなっている蓮子(れんし)、つまり蓮(はす)の種子です。蓮子は蓮肉(れんにく)とも呼ばれます。


蓮肉には多彩な薬効があり、主には熱によって乱された精神状態を安定化したり、漢方における消化器を指す脾(ひ)のはたらきを向上させて気を増します。さらに腎陰虚(じんいんきょ)を改善するはたらきもあります。他にも頻尿、下痢、不正性器出血、おりもの(帯下)などを改善する収斂(しゅうれん)作用も持っています。


人参、黄耆、茯苓、甘草は気を補うことで疲労感に代表される気虚(ききょ)の症状を改善します。人参は気だけではなく津液を補う力もあり、麦門冬と協働して不足している津液を補い、虚熱の発生を根本から防ぎます。黄芩と地骨皮は熱を鎮める清熱作用があり、発生している虚熱に対応します。そして、車前子は茯苓や黄耆とともに排尿を促し、その際に尿と一緒に虚熱も体外に排出します。


清心蓮子飲における補足


清心蓮子飲は津液を補い、その一方で利尿するという矛盾したような作用を持っています。これを理解するために、もう一度順を追って解説します。まずは繰り返しになりますが清心蓮子飲が適応となる根本的な状態は津液不足であり、その解消が第1の目標になります。


発汗が促される病気や過労などによって津液不足が進行すると、徐々に虚熱が起こります。津液不足に陥ると喉の渇きなどにくわえて尿量が減少し、さらに虚熱による精神不安が頻尿を生じさせます。この虚熱が清心蓮子飲の第2の目標となります。


清心蓮子飲はまず津液を補うことで身体を潤し、十分な尿が作られるようにします。そして、生み出された尿と一緒に虚熱も排出するのです。黄芩と地骨皮は直接的に虚熱を鎮めましたが、車前子などは排尿を通じて間接的に虚熱を除くのです。


しばしば清心蓮子飲は「心因性の頻尿に効く漢方薬」と認識されます。しかしながら、清心蓮子飲が有効なのは津液不足とそれに起因した虚熱による泌尿器系と精神面でのトラブルです。くわえて、気虚にともなう疲労感、手足の重だるさ、食欲不振なども使用の目安になります。


同じ精神トラブルでも慢性的なストレスや暴飲暴食などによって誘発される熱性症状の顕著な肝火(かんか)に対して清心蓮子飲は向きません。肝火によるイライラ感や怒りっぽさ、頭痛、ほてり感、眼の充血、口内炎、そして頻尿や排尿痛には竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)が有効です。

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文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)