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わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

啓脾湯(けいひとう)

啓脾湯の出典


万病回春


啓脾湯の構成生薬


人参3、白朮3-4(蒼朮も可)、茯苓3-4、蓮肉3、山薬3、山査子2、陳皮2、沢瀉2、大棗1、生姜1(ヒネショウガを使用する場合3)、甘草1 (大棗、生姜はなくても可)


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム


啓脾湯の効能・効果


体力虚弱で、痩せて顔色が悪く、食欲がなく、下痢の傾向があるものの次の諸症:胃腸虚弱、慢性胃腸炎、消化不良、下痢


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より


啓脾湯の処方解説


啓脾湯の構成生薬を見ると四君子湯(しくんしとう)を構成している人参、白朮、茯苓、甘草、大棗、生姜がそのまま含まれていることがわかります。つまり、啓脾湯は四君子湯に沢瀉、山薬、蓮肉、陳皮、山査子をくわえた処方と考えることができます。もともとは小児の下痢を中心とした消化器のトラブルを改善する処方でしたが、大人にも有効です。


四君子湯は食欲不振や疲労感といった脾胃気虚(ひいききょ)の状態を改善する基本処方であることから、啓脾湯も消化器の状態を整えて体力を向上させる漢方薬であることがわかります。さらに追加されている5つの生薬もすべて消化器に優しいものであり、沢瀉、山薬、蓮肉はそれぞれ下痢を改善するはたらきを持っています。陳皮は腹部の不快な張り感を除いたり、山査子は消化を助けます。


したがって、啓脾湯は消化器の不調や体力の低下を改善する力があり、そのなかでも特に下痢が目立つ方に適した漢方薬といえます。全体的に身体を温める生薬が多いので、もともと冷え性(冷え症)があり、さらにお腹を冷やしてしまうと悪化するような下痢や軟便を目標にしてしばしば使用されます。


啓脾湯における補足


啓脾湯の他に脾胃気虚を改善する漢方薬は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子湯(りっくんしとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)などが代表的です。これらはすべて上記でも登場した四君子湯がベースとなっている処方です。したがって、どの処方もおおむね食欲不振、胃もたれ、疲れやすさ、身体の重だるさ、食後の眠気、食べても太れないといった脾胃気虚の状態を改善する力を持っています。


その一方で吐気や嘔吐もあるなら六君子湯、消化器の症状以上に疲労感や重だるさが顕著なら補中益気湯がより適しています。参苓白朮散はほぼ啓脾湯と同じ薬効です。あえて差を挙げるなら口の中や唇の乾燥感、少し食べただけで腹部が張る、手足のほてり感があるといった脾陰虚(ひいんきょ)と呼ばれる症状がある場合はより参苓白朮散が適しています。


正直、補中益気湯や六君子湯と比較すると知名度では劣っている印象の啓脾湯ですが、とても優秀な処方です。胃腸が弱くてやせていて、頻繁に下痢になってしまう虚弱体質の方は少なくありません。そのような方に啓脾湯は最適です。その他にも1日に何回も水っぽい下痢が起こるような潰瘍性大腸炎やクローン病の方にも有効です。

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文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)