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わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

心(しん)と小腸(しょうちょう)とは

心(しん)のはたらき


漢方(中医学)において「心」とは「こころ」ではなく「しん」と呼びます。心の主なはたらきは2つあり、ひとつは血(けつ)を全身に力強く循環させるはたらきであり、もうひとつは高度な精神活動の維持です。後者のはたらきは「こころ」を連想させられる点が興味深いです。心はこの他にも舌のはたらき、つまりは味覚や発声にも関わっています。


心の異常


心において起こる代表的な異常として心気虚(しんききょ)、心陽虚(しんようきょ)、心血虚(しんけっきょ)、心陰虚(しんいんきょ)、心火上炎(しんかじょうえん)、心腎不交(しんじんふこう)、心血瘀阻(しんけつおそ)、痰迷心竅(たんめいしんきょう)、痰火擾心(たんかじょうしん)などが挙げられます。


心気虚(しんききょ)とは

心気虚とは心に供給される気が不足している状態を指します。基本的に心のみが気虚に陥ることはなく、全身的な気虚の上で心の機能低下(この場合は主に循環器系の機能低下)が目立つ場合を指します。心気虚の具体的な症状としては動悸、息切れ、不整脈、胸苦しさ、発汗過多などが挙げられます。


心気虚を改善する漢方薬は基本的に気虚に対応できるもの全般となります。具体的には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、四君子湯(しくんしとう)や六君子湯(りっくんしとう)、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などが代表的です。


心陽虚(しんようきょ)とは

心陽虚とは心気虚がより進行してしまうことで気の持つ温煦(おんく)作用、つまりは身体を温める作用が充分に発揮できなくなった状態を指します。心陽虚の具体的な症状としては心気虚にくわえて手足の冷え、寒がり、薄い尿が頻繁に出るといった症状が現れます。


心陽虚を改善する漢方薬は人参湯(にんじんとう)、桂枝人参湯(けいしにんじんとう)、真武湯(しんぶとう)などが代表的です。


心血虚(しんけっきょ)とは

心血虚とは心を栄養する血が不足した状態です。心気虚と同様に全身的な血虚症状の上で心の機能低下(この場合は精神活動の不調)が目立つ場合を指します。心血虚の具体的な症状としては寝つきの悪さ、眠りの浅さ、多夢、不安感、記憶力の低下、驚きやすさなどが挙げられます。


心血虚はしばしば脾気虚(ひききょ)と併発しやすく、この状態を心脾両虚(しんぴりょうきょ)と呼びます。脾気虚とは胃腸を中心とした消化機能が低下した状態であり、食事を通じて気や血が生み出されにくくなる状態です。心脾両虚の具体的な症状としては心血虚の症状にくわえて食欲不振、空腹感の減少、食後の眠気や腹部の張り、下痢や軟便、疲労感などが挙げられます。


心血虚を改善する漢方薬は、酸棗仁湯(さんそうにんとう)、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)などが代表的です。心脾両虚の場合は帰脾湯(きひとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)がより適しています。


心陰虚(しんいんきょ)とは

心陰虚とは心血虚にくわえて津液不足(しんえきぶそく)も併発している状態を指します。血も津液(しんえき)も不足することで気の持つ熱性を抑制することができなくなっている状態ともいえます。心陰虚の具体的な症状としては心血虚の症状にくわえてのぼせ感、手のひらや足の裏の不快な熱感、口の渇き、寝汗などが挙げられます。


心陰虚の改善には心血虚にもちいられる漢方薬に六味地黄丸(ろくみじおうがん)や杞菊地黄丸(こきくじおうがん)などが併用されます。


心火上炎(しんかじょうえん)とは

心火上炎とは主に激しい怒りや精神的なストレスが慢性的にかかり続けた結果として現れる病能です。心火上炎の具体的な症状としてはイライラ感、焦燥感、多動、不眠症、のぼせ、顔面紅潮、口の渇き、口内炎などが挙げられます。心火上炎は心火旺(しんかおう)や心火亢盛(しんかこうせい)とも呼ばれます。


多くの場合、肝(かん)も巻き込んだ心肝火旺(しんかんかおう)の状態となってみられます。肝は心と強調して精神状態の安定化に貢献しているので、両者の失調はより強いイライラ感や怒りっぽさ、頭痛、めまい、耳鳴りや難聴などが現れやすくなります。


心火上炎や心肝火旺を改善する漢方薬は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、三黄瀉心湯(さんのうしゃしんとう)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、大柴胡湯(だいさいことう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)などが代表的です。


心腎不交(しんじんふこう)とは

心腎不交とは心火上炎などで生じた過剰な熱が腎(じん)の津液を消耗させてしまった状態を指します。イメージとしては鍋の中に入っている水が強火を受けることで蒸発しているようなものです。心腎不交の具体的な症状としては心火上炎の症状にくわえて下半身の重だるさ、手のひらや足の裏の不快なほてり感、寝汗、口の渇き、聴力低下や耳鳴りなどが挙げられます。


心腎不交を改善する漢方薬は六味地黄丸(ろくみじおうがん)と黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の併用や知柏地黄丸(ちばくじおうがん)などが代表的です。


心血瘀阻(しんけつおそ)とは

心血瘀阻とは血の巡りの停滞である瘀血(おけつ)の症状が胸部を中心に現れた状態を指します。心血瘀阻(しんけつおそ)の具体的な症状としては突然の強い胸部の痛み、締め付け感、動悸などが挙げられます。西洋医学的には狭心症や心筋梗塞に該当する状態と考えられます。


心血瘀阻(しんけつおそ)を改善する漢方薬は桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、折衝飲(せっしょういん)、芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)などが代表的です。漢方薬ではありませんが、血の巡りを改善する力に優れている田七人参(でんしちにんじん)をもちいた生薬製剤も有効です。


痰迷心竅(たんめいしんきょう)とは

痰迷心竅とは痰飲(たんいん)が心にこびりつくことで心の担っている精神安定化作用を妨害している状態です。痰飲とは津液の流れが悪くなることで生まれる病的産物を指します。痰迷心竅の具体的な症状としては異常な独り言、異常行動、手足のけいれん、意識障害、多量の痰がのどに詰まるなどが挙げられます。西洋医学的には認知症や統合失調症の一部に該当すると考えられます。


痰迷心竅を改善する漢方薬は温胆湯(うんたんとう)や牛黄(ごおう)製剤などが代表的です。


痰火擾心(たんかじょうしん)とは

痰火擾心は上記の痰迷心竅と似た病態です。痰火擾心もまた痰飲が心のはたらきを妨害しているのですが、この痰飲が慢性化などによって熱を帯びてしまっているのが痰火擾心です。痰火擾心の具体的な症状としては精神状態や言語の錯乱、暴力行為や破壊行為、不眠、頭痛、発熱、のぼせ感、発熱、眼の充血、便秘、粘り気の強い黄色い痰がのどに詰まるなどが挙げられます。全体的に痰迷心竅よりも攻撃的で激しい症状が多くなります。


痰火擾心を改善する漢方薬は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)と温胆湯(うんたんとう)の併用や牛黄(ごおう)製剤などが代表的です。


小腸(しょうちょう)のはたらき


第2章で登場した五行論において心は火に属し、六腑のうち小腸と表裏の関係を築いています。一方で心と小腸に深いつながりがあるとはいえません。小腸のはたらきは胃から降りてきた飲食物から気や津液の原料となる有用成分(水穀の精微と呼ばれます)を吸収することであり、西洋医学的な小腸の考え方とほぼ同じといえます。


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文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)